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越境の説明義務違反、慰謝料5万円の支払いが認められた事例

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越境の説明義務違反、慰謝料5万円の支払いが認められた事例

 買主が主張する売主側媒介業者の誠実義務違反や暴言を否定し、説明義務違反に対する5万円の慰謝料のみを認めた事例(東京地判平30・1・31)

判決内容に対する主観的なコメント

 この判例の買主に関して、私はクレーマーでは?と思ってしまいました。

 売主側媒介業者として、買主側媒介業者に「この人ローン大丈夫ですか?この年収では難しいじゃないですか?」という話しをする事はよくある事です。それを暴言と言われたら、売主様にどう説明をしたら良いのでようか?

 ただ、越境の確認を怠ったことは業者側の責任です。

 たった約2cmとはいえ、共同仲介で2社ともそれに気付かなかった事は致命的です。

事案の概要

 平成26年2月、買主(原告・個人)は、買主側媒介業者(法人、担当者買主側媒介業者)を通じて、売主(個人)の所有にかかる土地(本件土地)につき、3700万円で購入する旨の申込書を提出したが、同年4月、代金を3750万円とする売買契約(本件売買契約)を締結した。

 その際、売主側媒介業者(被告・法人)が買主に交付した物件状況等報告書には「越境なし」との記載があった。

 平成26年5月、買主は売主より本件土地の引き渡しを受けたが、同年9月、本件土地の隣接地に建てられている倉庫の庇が本件土地に約2cm越境(本件越境)していることが判明した。

 買主は

 ①売主側媒介業者は本件売買契約の締結に際し、買主に対し、物件状況等報告書において越境はない旨の誤った説明をした。

 ②売主側媒介業者は、買主のローン審査が内定していたにもかかわらず、源泉徴収票の提出を求めるなどして売買契約の成立を遅らせた。その結果、買主は平成26年3月中に引き渡しを受けていれば享受できたはずの住宅ローンの優遇金利の適用を受けることができなかった。また、同年4月に本件土地を3750万円での購入希望者が現れたことで、値上げの可否を2日間で判断することを迫られ、売買代金を50万円引き上げざるを得なくなった。

 ③売主側媒介業者の担当者は、買主の源泉徴収票を見て「買主の収入では、売主側媒介業者の基準では本件土地を買えない」などと暴言を吐いた。

と主張して、売主側媒介業者に対し、194万円余の損害賠償を請求する本件訴訟を提起した。

これに対して売主側媒介業者は

 ①本件越境について説明しなかったことは認めるが、軽微な越境であり、説明義務違反の程度は重大ではない。

売主側媒介業者は買主に対して説明不足を謝罪し、隣地所有者との交渉協力を申し出たにもかかわらず、買主は倉庫全体の撤去を要求してこれを拒絶した。

 ②本件売買契約の成立が遅れたのは、売主側媒介業者がローンの事前審査を勧めたにもかかわらず、買主が審査に時間を要する本審査を受けることに固執したからであり、売主側媒介業者がことさらに売買手続きを遅延させたことはない。

 また、本件土地はもともと3750万円で売りに出していた土地であり、3700万円で購入できることについて買主の期待権は発生しない。

 ③売主側媒介業者の担当者が買主に対して暴言を吐いたことはない。

 と反論した。

判決と内容のあらまし

 裁判所は次のように判示して、買主の請求のうち、慰謝料として5万円を認めた。

 ⑴本件越境による説明義務違反について

 本件土地については、隣地の倉庫の庇部分が約2cm程度越境していたこと、売主側媒介業者が重要事項説明書及び物件状況等報告書においてこのことを説明せず、越境がない旨の誤った説明をしたことは、当事者間に争いがない。

 しかし本件越境はごくわずかなもので、本件倉庫の存在自体は、原告も事前に現地を見分して認識していたのであるから、仮に本件越境について説明を受けていたとしても、原告が本件土地の購入を断念したとは考え難く、何らかの対応を余儀なくされた可能性は高かったといえる。

 これらの事情を総合考慮すると、本件越境に係る説明義務違反により原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料の額は、5万円と認定するのが相当である。

⑵誠実に売買交渉を行う義務違反について

 認定事実によれば、売主側媒介業者は、買主のローン審査が通るまでの間、買主側媒介業者に対し、審査が通る見込みについて打診を行っていたにすぎないといえ、売主側媒介業者が売買契約の締結をことさらに遅らせたものと認めることはできない。

 なお、売主側媒介業者の担当者が源泉徴収票の提出を求めたか否かについては必ずしも明らかではないが、仮にその事実があったとしても、審査が通る見込みについて不安に思っていた売主側媒介業者の担当者が、資料の一つとして提出を求めたものであって、嫌がらせや不当な目的の下に行ったとまでは認められないことからすれば、そのことが、買主に対する不法行為を構成するとまではいえない。

 また、売主側媒介業者が提示していた売買代金はもともと3750万円であり、売主側媒介業者が平成26年4月4日までに3700万円での売却を了承する旨買主に伝えた事実を認めるに足りる証拠もなく、買主に3700万円で購入できることについて法的な意味での期待権が発生していたということはできない。

 また、50万円の値上げの可否についての回答期限を2日間という短期間に設定したことについても、売主側媒介業者は、売主の利益のために交渉すべき立場にあることに加え、当該価格が当初から公表されていた売主の希望売却価格であることに照らせば、社会通念上不当とまではいえない。

⑶売主側媒介業者の担当者による買主に対する暴言について

 買主の主張によっても、売主側媒介業者の担当者の発言は買主に対し直接向けられたものではなく、あくまで買主側媒介業者に対してされたものにすぎない上、証人の証言によっても、売主側媒介業者の担当者が具体的にどのような発言をしたのかは必ずしも明らかではない。

 そうすると、売主側媒介業者の担当者が買主側媒介業者に対し、買主の資力等について疑いをもっているかのような発言があったとしても、これが買主に対する不法行為を構成するとまで認めることはできない。

まとめ

 不動産の取引において現地確認は言うまでもなく重要な事です。

 調査不足は、不動産経験の浅い営業担当や、不動産取引に少しなれて緊張感がなくなってきている人に多いミスです。

 この判例の買主は、越境以外でも、価格交渉や、優遇金利の適用、暴言あったなどとして色々と売主業者に対して非難をしていますが、もともとの係争の原因は一つだったように思います。

 この判例では慰謝料5万円で済みましたが、担当者の調査不足で一つの歯車が外れ、違約等のさらに大きな問題発展していた可能性も十分考えられます。

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