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不動産取纏め依頼書により契約が成立している?売主から違約金3393万円の請求

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不動産取纏め依頼書により契約が成立している?売主から違約金3393万円の請求

 不動産取纏め依頼書により売買契約が成立している、または契約締結上の義務違反があるとした売主の請求が全て棄却された事例(東京地判平26・12・18)

不動産取纏め依頼書により契約が成立している?売主から違約金3393万円の請求

 不動産取纏め依頼書(ふどうさんとりまとめいらいしょ)とは、購入希望者が仲介業者に対し購入条件を書いて、その条件を不動産の所有者と交渉して、物件を購入できるように、話を纏めてきてもらう為の依頼書です。

 不動産の所有者の売却条件が確定していない場合や詳細が不明なものなどに、購入申込書ではなく不動産取纏め依頼書が使われます。

 不動産取纏め依頼書と購入申込書にはどちらも法的拘束力はなく、売買契約までの間にキャンセルしても金銭的なペナルティはありません。

 この判決では、隣地所有者から境界承諾書の取得ができなかった事が問題となり、契約に至っていませんが、境界承諾書が無い場合「境界隣地所有者との間で紛争のおそれがある」と買主が考えるのは当たり前の事です。

 おそらく、不動産業者の営業担当は、契約日前日まで隣地所有者と連絡が取れていない事を買主に隠し、契約日当日に買主への重要事項説明をサラッとしてしまえば、買主にも突っ込まれず大丈夫とでも思っていたのではないでしょうか?

 判例の「第1契約」の仲介手数料は両手で1362万円、額が大きいだけに無理やり契約をしてしまおうとしている感じがします。また、売主はいわゆる三為業者でしょう。

事案の概要

 平成24年9月上旬頃、買主(被告・個人)及びその妻買主の妻は、買主の取引先銀行担当者銀行の担当者から不動産業者の営業担当を紹介され、営業担当から本件土地及び建物(以下「本件不動産」という。)の購入につきセールスを受けた。

 9月中旬頃、買主及び買主の妻は、本件不動産の現地を訪れた際、本件不動産の南側に接する隣地の私道通路部分(以下「隣地通路部分」という。)に長さ1m程度の太い杭が打たれていることに気づいた。

 9月28日、買主の妻は、本件不動産の内見に訪れた際、営業担当に対し、隣地通路部分通行の可否と境界承諾書の取得の有無の確認を依頼した。

 10月1日、買主の妻は、買主に本件不動産を2億2500万円(税込)で購入する意向である旨の記載のある不動産取纏め依頼書に署名押印をしてもらい、これを営業担当に交付した。

 なお、不動産取纏め依頼書には、「売主の承諾が得られ次第、売買契約の締結を致します。」との記載及び契約予定日平成24年10月17日との記載であった(以下「本件第1契約」という。)。

 また、営業担当は、買主の妻に対し、本件不動産を売主前所有者から買取って売主となる旨説明した。

 10月11日、買主の妻は、営業担当から本件不動産に関する重要事項説明を受けた際、隣地所有者より境界承諾書は未取得であると聞いたとされる。

 買主は、上記の事情を妻から聞き、本件不動産は第三者に賃貸する予定であり、将来通行をめぐって境界隣地所有者とで紛争のおそれがあると考え、本件不動産の購入を見送る考えを固めた。

 10月12日(金曜日)の夜、買主は、境界承諾書を入手できないならば本件不動産の取引はしない旨営業担当に告げた。

 さらに、買主は、本件銀行の翌営業日である10月15日(月曜日)に銀行の担当者に対し、10月16日には営業担当に対して、売買契約をしない旨改めて電話で伝えた。

 10月15日、売主は、前所有者との間で、本件不動産を代金2億1500万円(税込)で購入する旨の売買契約(以下「本件第2契約」という。)を締結した。

 10月17日、買主及び買主の妻は、売主と初めて面談し、その際売主から違約金として4300万円の支払いを求める旨告げられた。

 後日買主は、本件訴訟代理人弁護士に委任し、売主に対して、仲介業者である営業担当から複数の重要な事実について当初からきちんと説明されていなかったことなどから売買契約を締結しない旨の通知書を送付した。

 その後売主は、買主に対し、債務不履行及び不法行為による損害金として違約金・転売利益分等の合計金額として3393万円余を請求した。

判決と内容のあらまし

 裁判所は、次の通り判示し、売主の請求を棄却した。

1.本件第1契約(買主と売主との契約)の成否及び債務不履行解除の成否

 売主は、平成24年10月15日までに本件不動産の売買に関する合意が成立していた旨主張する。

 しかし、本件不動産の売買に関する売主及び買主間の交渉経緯は、上記事案の概要のとおりであったと認められ、買主から不動産業者宛ての不動産取纏め依頼書の差入れがされたが、買主は本件銀行から融資が受けられることを前提として購入を検討していたにとどまる上、その時点で買主が融資申込手続を行っていた形跡もうかがわれないことに照らし、不動産取纏め依頼書は本件不動産の購入を希望する意向を示したものにすぎず、同日時点不動産取纏め依頼書をもって売主及び買主間において、本件第1契約に関する合意が成立するに至っていたとは認められず、10月15日時点で売主及び買主間で本件第1契約が成立していたと認めるに足りないというべきである。

2.買主の売主に対する契約締結上の過失の有無

 売主が10月15日に前所有者との本件第2契約(売主と前所有者との契約)を締結したのは、営業担当から同月15日までに必ず本件第2契約を成立させておく必要がある旨の申入れがあったためであると認められ、他方、買主から売主又は営業担当に対し、本件第1契約に先立って本件第2契約の契約書を提示するよう求めた事実があるとはうかがわれない。

 また、買主及び買主の妻は当初から、隣地通路部分による通行の可否及び境界隣地所有者との紛争のおそれについての懸念を示し、買主の不安が払拭されなかったことが契約締結に至らなかった最大の理由であったと認められる。

 そして、上記のような買主の意向は、営業担当においても十分認識していた上、買主の妻ないし買主とのやりとりについては逐次、営業担当から売主に対して報告されており、売主も買主の要望等を認識していたと認められ、買主に本件第1契約の契約締結に努めるべき信義則上の義務があったと認めることはできないというべきである。

まとめ

 営業担当は、買主から「境界承諾書を入手できないならば本件不動産の取引はしない」と言われておきながら、どうして第2契約までしてしまったのでしょうか?営業担当はいったい何をしていたのでしょうか?

 不動産取纏め依頼書には法的拘束力が無いことからすれば、売主が違約金を請求したところで認められるはずが無いことは容易に分かります。

 また、買主は当初から、隣地通路部分による通行の可否及び境界隣地所有者との紛争のおそれについての懸念を示している事に対して、営業担当が完全にそれを無視しているようです。

 境界については、売主が明示して買主に引き渡すのが基本です。その説明も営業担当者が最初からしておけばここまでのトラブルにはならなかったようにも思います。

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