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土壌汚染が認められた場合の損害賠償

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土壌汚染が認められた場合の損害賠償

 工場を賃借した事業者による土壌汚染が認められ、賃貸人が負担した土壌調査費用及び土壌汚染対策工事費用相当額の損害賠償が命じられた事例(東京地判 平19.10.25)

土壌汚染が認められた場合の損害賠償

 賃借人は、本件土地について汚染物質を取り除き、原状回復した上で賃貸人に返還しなければなりません。

 土壌汚染を除去しないまま本件建物及び本件土地を返還した賃借人は、債務不履行に基づく損害賠償責任を負うことになります。

 売買物件の場合で、過去どんな建物が建っていたかの調査を行う場合、図書館で昔の地図を調べたり、法務局で閉鎖謄本を調べたりします。

事案の概要

 不動産の売買、仲介及び管理を業とする賃貸人の元代表者は、昭和43年7月、本件土地を取得して2棟の建物を建築し、合計4区画に分割して賃貸していた。

 賃貸人は、平成17年5月、元代表者より本件土地を取得した。

 各種溶射機器及びその部品、溶接材料及び溶射機器の関連・周辺機器の輸出入、製造、販売等を業とする賃借人は、昭和50年5月、本件建物の1区画を賃借した。

 他の区画は資材会社接着剤団体電気会社、エンジニアリング会社などが賃借していたが、賃借人は、その後順次借り増しを行い、本件建物全体を賃借するに至ったが、その用途は溶射技術センターであった。

 センターは機械装置の設計と修理、評価試験片などの作成とその評価、溶接技術研修を行っていた。

 本件建物は、全面コンクリートが敷かれた上に建設されたものであり、センターの各作業は土間コンクリートの上で行われていた。

 賃借人は、センターにおいて平成7年から9年までの2年間で鉛含有の溶射用合金粉末を合計120kg、平成50年から平成2年頃までトリクロロエチレン1,200リットルを使用した。

 賃借人は、平成10年2月、賃貸人に対し、本件建物を明け渡した。

 しかし、工場廃止届を速やかに提出せず、平成17年3月になって板橋区に提出した。

 それには賃借人が本件工場で有害指定物質のうち鉛、ホウ素、フッ素及びトリクロロエチレンを使用しており、汚染の可能性があるとの記載がなされていた。

 賃貸人は、板橋区から本件土地の土壌汚染状況概況調査及び土壌汚染状況詳細調査を求められて各調査を行い、合計273万円の調査費用を支出した。

 本件土壌調査の結果、トリクロロエチレンの分解生成物であるシスー1、2ジクロロエチレンが東京都の汚染土壌処理基準を超える数値で発見された。

 また、鉛が深度0.5mと深度1.0mにおいて都の基準を超過する数値で発見された。

 賃貸人は、平成17年、本件建物を解体し、本件土地のうち土壌汚染が確認された部分について土壌汚染対策工事及び土壌搬出工事を行ない、1,890万円を支出した。

 そこで、賃貸人は、これらの費用の支払いを求め提訴した。

判決と内容のあらまし

 裁判所は次のように述べて、賃貸人の主張を認容し、土壌調査費用及び土壌汚染対策工事費用相当額2,163万円の損害賠償を命じた

 賃借人は、本件土壌汚染の原因が賃借人による本件建物の利用であるとの証明はなく、むしろ、そうはいえない蓋然性の方が高いとして、種々の主張をする。

 確かに、賃借人の主張を個々取り上げて検討すれば、賃借人が本件土壌汚染の原因者であうとの認定に疑義を挟む余地がないわけではないが、

・被告が本件建物において汚染物質と同じトリクロロエチレン及び鉛を使用していたこと

・賃借人以外の賃借人がトリクロロエチレンを使用せず、鉛も日常的に使っていなかったこと

・本件建物のコンクリートにひび割れが生じていた可能性が認められること

・賃借人の作業所と汚染物質が検出された場所に近接性が認められること

・賃借人による汚染以外の汚染原因を認めるに足りる証拠が無いこと

 類似の事例で土壌汚染を生じさせた事例があること等の事実を総合的に判断すれば、本件土壌汚染が賃借人の作業の際に使用したトリクロロエチレン及び鉛がコンクリートを浸透して地下に到達したために生じた事実を優に認定することができるのであり、これを覆すに足りる証拠は認められない。

 そして、賃借人は、建物の賃貸借においては、敷地でもある土地においても、これを原状に復した上で返還する義務を負っているのであり、賃借人は、本件土地について汚染物質を取り除き、原状に復した上で賃貸人に返還しなければならず、土壌汚染を除去しないまま本件建物及び本件土地を返還した賃借人は、債務不履行に基づく損害賠償責任を負う

 板橋区は、昭和52年頃から工場跡地についての土壌汚染調査・処理指導を行っており、工場廃止届が提出された時点で、賃借人に対して本件土壌調査が指導された可能性がないわけではないが、調査を法的に義務付ける法令等は制定されていなかったのであるから、賃借人が土壌調査を命じられたか否かは明らかではなく、賃貸人が本件土地を開発するに際して、賃貸人が本件土壌調査を免れたか否かも明らかではないといわざるを得ない。

 また、本件土壌調査の届けは、板橋区土壌汚染調査・処理要項に基づき行われたものであり、同要綱の調査の契機となるのは大規模建築物等の建設であって、工場等の廃止ではなく、賃借人による工場廃止届の提出の懈怠(カイタイ)と本件土壌調査との間に因果関係を認めることもできない。

 このように、本件土壌調査は、賃借人が本件土地の土壌を汚染させながら、その汚染を除去せずに明け渡し、履歴調査の結果、本件土地に土壌汚染のおそれがあったことから、調査を命じられたものである。

 そうすると、本件土壌調査は、賃借人が本件土地の土壌を汚染しておきながら明渡し時に土壌汚染を除去しなかったことが原因で命じられたものであり、賃借人による土壌汚染と本件土壌調査との間には因果関係が認められる。

まとめ

 賃貸の原状回復は、建物だけではなく土地についても原状回復する義務があります。

 土壌汚染は工場だけでなく、過去にクリーニング店であった場所も汚染されている可能性があります。

 クリーニング店では、ドライクリーニングを行う際に、特定有害物質であり、洗浄力の強い「テトラクロロエチレン」が使用されている可能性がある為です。

 ちなみに「テトラクロロエチレン」は使用方法を守られた上で、現在も使用されています。

 土壌汚染された地下水を飲用したり、手についた汚染土壌や砂ほこりが口から入ってきた場合、健康被害が生じるおそれがあります。

 地歴を調査しておく事もトラブルを回避する為に需要なことです。

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