賃料等未払いによる賃貸人の契約解除を認めたが、設備の不具合により建物が通常使用できなかった期間の賃借人の賃料支払義務はないとした事例(東京地判平26・8・5)
目次
暑い夏にエアコンが故障、修理期間中の賃料の支払いは?
この暑い夏に、エアコン無しで店舗や事務所で営業を行うのは不可能だと思います。
エアコンが故障して、修理をしてもらっても、またすぐ壊れるという事もよくある事です。
エアコンが使えず、営業ができない期間の賃料はどうなるのか?
判例では、「使用収益ができず、契約目的を達することができない状態にあった場合、その期間分の賃料等については賃借人に支払義務はない」とされています。
ただ、使用収益ができなかった期間分の賃料等の支払義務がないだけで、
エアコンの修理が終わってからも、ずっと賃料を払わなくていいなんて事はありません。
判例の賃借人は、営業損害及び精神的苦痛に対する慰謝料として計964万円余の損害金の支払いを請求していますが、
全部棄却されています。
そりゃそうですよ…
事案の概要
■賃貸人(訴えを起こした側・原告・反訴被告)
■賃借人(訴えられた側・被告・反訴原告)(事務所及び店舗:カイロプラクティック)
■賃借人の連帯保証人(訴えられた側・被告)
賃貸人(原告・反訴被告)は、本件建物を、事務所及び店舗(カイロプラクティック)としての使用を目的とする賃借人(被告・反訴原告)との間で、賃料月額9万9900円、共益費月額1万5750円、期間2年の条件にて賃貸借契約を締結するとともに、連帯保証人(被告)との間で、賃借人の本件賃貸借契約による債務につき連帯保証契約を締結し、本件建物を平成25年2月に賃借人に引き渡した。
平成25年7月上旬、本件建物のエアコンが不調となり、賃借人は本件建物の管理会社に修理を依頼したが、同月20日の修理業者の点検では作動に問題は見られなかった。
平成25年8月6日再度エアコンが不具合となり、賃借人は建物管理会社に修理を依頼し、また同月12日には室内が33度をキープするなど暑くて仕事にならない旨の連絡を建物管理会社に入れたが、不具合の原因が判明しエアコンの交換が完了したのは同月24日のことであった。
平成25年9月25日、本件建物において賃料未払を発生させた賃借人と保証会社担当者との間で警察官を呼ぶいさかいがあった。
賃貸人は、本訴訟において、賃借人に対し平成25年8月から同年11月分までの賃料等の未払いを理由に、催告の上本件賃貸借契約を解除して建物の明渡しを求め、また、賃借人及び連帯保証人に未払賃料等を請求した。
対して賃借人は、
①引渡しを受けた当初から本件建物はエアコン不具合のため通常使用ができない状態にあり、賃借人に賃料等の支払義務はない、
②賃貸人が、保証会社及び管理会社に、賃借人に対する執拗な請求行為、恐喝脅し及び営業妨害等をさせた」として、
賃貸人の請求の棄却並びに賃貸人の不法行為による営業損害及び精神的苦痛に対する慰謝料として計964万円余の損害金の支払いを求め反訴した。
判決と内容のあらまし
裁判所は次のように判示し、賃貸人の請求の一部を除いて認容し、賃借人の反訴請求を全部棄却
⑴本件建物が使用収益できたかについて
賃貸借契約の対象不動産につき、賃借人の責めによらない原因によりその使用収益ができず、賃貸借契約の目的を達成できない状態になった場合は、公平の見地から、民法536条1項を類推適用して、賃借人は賃借物を使用収益できなくなったときから賃料の支払義務を負わないと解される(大阪高裁平成9年12月4日判例タイムズ992-129)。
また、この場合には、賃貸借契約終了後の賃料相当損害金の発生も認められないというべきである。
本件建物においては、平成25年8月6日から同月24日までのエアコンに不具合があった期間は、賃借人の使用目的に照らすと本件建物の使用収益ができず、契約目的を達することができない状態にあったと認められることから、この19日間分の賃料等については賃借人に支払義務はないと認められる。
⑵賃貸人の賃借人に対する営業妨害等について
賃借人が、保証会社担当者との間で警察官を呼ぶいさかいがあった経緯は認められるが、本件記録を総合しても、賃貸人が、保証会社及び管理会社に、賃借人に対する営業妨害等をさせていたことを認めるに足りる証拠はない。
⑶賃借人の反訴請求について
平成25年8月の一時期において、本件建物のエアコンに不具合があったことが認められるが、本件建物の引渡し当初及び平成25年8月25日以降は使用収益できる状態であったと認められ、本件各証拠等を総合しても、同エアコンの不具合に関し賃貸人に不法行為があったとも認められない。
また、前記(2)のとおり、賃貸人が、保証会社及び管理会社に賃借人に対する営業妨害等をさせたと認めることはできないから、賃借人の賃料等の支払義務を負わず、賃貸人の本件賃貸借契約の解除は理由がない旨の主張、営業妨害等を理由とする賃貸人への損害賠償請求は認められない。
⑷賃貸人の本訴請求について
本件賃貸借契約は、賃貸人により平成25年12月13日に解除されたことが認められるから、賃貸人の各請求は、賃借人に対する本件賃貸借契約の終了に基づく本件建物の明渡し並びに賃借人及び連帯保証人に対する未払いとなっている、平成25年8月分から本件建物の明渡し済みまでの賃料等ないし賃料等相当損害金(ただし、前記(1)の賃借人が本件建物を使用収益できなかった19日間分の賃料等を除く。)の支払いを求める限度で理由がある。
まとめ
2020年4月の民法改正で、民法536条1項も改正されています。
■民法536条1項(債務者の危険負担等)【改正前】
前二条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。
■民法536条1項(債務者の危険負担等)【改正後】
当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
債務と債権の関係は状況によって変わります。
判例の場合は、債務者が賃貸人で、債権者は賃借人です。
また、反対給付はこの場合賃料の事になります。
民法の条文に置き換えると
【改正前】当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、賃貸人は、賃料を受ける権利を有しない。
【改正後】当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、賃借人は、賃料支払いの履行を拒むことができる。
となります。
改正後の違いは、債権者による反対給付の履行拒絶および契約解除がいずれも可能とされます。
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