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振り込め詐欺の利用された私書箱、無催告解除はできるのか!?

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振り込め詐欺の利用された私書箱、無催告解除はできるのか!?

 私書箱業を営む賃借人の私書箱が振り込め詐欺に利用され、有効な対策を採らなかったことが信頼関係の破壊にあたるとされた事例(東京地判平27・10・15)

振り込め詐欺の利用された私書箱、無催告解除はできるのか!?

 私書箱とは、自宅のポストとは別のもう一つのポスト、2つ目の住所を持つということでもあります。

 私書箱は、部署がたくさんある大企業や、重要な書類を盗難のおそれががある自宅のポスト等に入れられたくない方や、自宅の住所を知られたくない方等、様々な場面で利用されています。

 しかし、私書箱はその便利さゆえに犯罪に使われる危険性もあります。振り込め詐欺をする犯罪者にとっても、住所を知られないという事は大きなメリットになってしまいます。

 賃借人が私書箱の経営を希望しているようであれば、その運営方法や本人確認の実施方法等も確認をしておいた方が良さそうです。

事案の概要

 平成10年ごろ、賃借人(被告・法人)は、本件ビルの1階に位置する本件貸室を賃貸人より賃借し、

 平成24年3月、賃借人と賃貸人は、下記内容にて本件貸室の賃貸借契約を更新した。

①用途:事務所(私書箱センター)
②期間:更新日より2年間
③賃料:月額16万円
無催告解除事由

・賃借人又はその使用人が本物件内の共同生活の秩序を著しく乱すものと認められる場合

・賃借人又はその使用人に警察の介入を生じさせる行為があった場合

・賃借人又はその使用人に、近隣居住者の平穏を害するおそれのある行為があった場合

 賃借人は、平成10年頃から私書箱営業を営んでいたところ、警察による振り込め詐欺事件の捜査過程において、被害者の現金送付先として本件貸室における私書箱が利用されていることが判明、賃借人について犯罪収益移転防止法に定める本人確認等の義務違反が認められた。

 平成23年3月付の国家公安委員会からの意見陳述を受け、経済産業省が立入検査を行った結果、賃借人について次の犯罪収益移転防止法違反行為が認められた。

 ①犯罪収益移転防止法施行後に法人及び個人との間で締結した郵便物受取サービスに係る契約の一部について、同法が定める本人確認を行っていない。

 ②犯罪収益移転防止法施行後に法人及び個人との間で締結した郵便物受取サービスに係る契約の一部について、同法が定める本人確認記録の作成及び保存を行っていない。

 経済産業省は、平成24年1月付で、賃借人に対し以下の措置を講じる旨の是正命令を行った。

 ①賃借人における関係法令に対する理解及び遵守の徹底

 ②本人確認並びに本人確認記録の作成及び保存義務違反に係る再発防止策の策定

 ③犯罪収益移転防止法施行時以後に契約を締結した顧客についての本人確認並びに本人確認記録の作成及び保存の実施

 本件貸室は、本件是正命令後も振り込め詐欺の送金先として利用されていたため、警察庁は、平成25年12月、振り込め詐欺等で使用された住所一覧の中で本件貸室の住所をインターネット上で公表した。(平成27年5月時点においても、本件貸室は掲示されている。)

 平成26年2月、新賃貸人(原告・法人)は賃貸人より本件ビルを買い受け、賃貸人の賃借人に対する賃貸人の地位を承継した。

 平成26年3月、本件賃貸借契約は法定更新された。

 平成26年9月、新賃貸人は、本件貸室で営む私書箱が振り込め詐欺の送金先として利用されていることが本件賃貸借契約上の用法義務違反及び無催告解除事由に該当するとして、賃借人に対し賃貸借契約の解除及び本件貸室の明渡しを求めた。

 しかし賃借人がこれに応じなかったことから、平成26年11月に本件訴訟を提起した。

判決と内容のあらまし

 裁判所は、次のとおり判示し、新賃貸人の請求を認容した。

 ⑴本件貸室が振り込め詐欺の送金先として利用されることが本件建物の賃貸用建物としての信用を失墜させるものであることに照らすと、賃借人においては、自らの犯罪収益移転防止法上の義務違反がその一因となった上記結果を除去するための有効な方策を実施することが求められるというべきところ、賃借人は、私書箱利用者の身分確認の徹底、ホームページ上での申込用紙の非公表等、各種の方策を実施している旨主張するが、上記のとおり、本件貸室が送金先として利用され続けたことに照らすと、賃借人の上記対応をもって、賃借人において、本件貸室を振り込め詐欺の送金先として利用されなくするための有効な方策が採られたと認めるに足りない。

 そうすると、本件是正命令後、新賃貸人が最初に本件賃貸借契約を解除するとの意思表示をした平成26年9月までの間、本件貸室が振り込め詐欺の送金先として利用されたことは、賃借人において犯罪収益移転防止法に対する遵守意識が低く、その後も有効な方策が採られなかったことが原因であるということができる。

 ⑵本件建物が賃貸用の収益不動産であることに照らすと、本件貸室が振り込め詐欺の送金先として利用され、そのことが平成25年12月以降、平成26年9月の公表分まで警察庁のホームページで公表されていることは、本件建物の信用、価値を著しく低下させるものであり、新賃貸人と賃借人間の信頼関係は破壊されていたということができる。

 ⑶以上によれば、本件貸室が振り込め詐欺の送金先として利用されたことは、本件建物内の共同生活の秩序を著しく乱すものであり、催告をせずに本件賃貸借契約を解除することが不合理であるとは認められないから、無催告解除事由に該当するものと認められる。

 したがって、平成26年9月の時点で、賃借人については、本件賃貸借契約上の無催告解除事由が存したと認められるから、新賃貸人がした本件賃貸借契約の解除は有効であり、本件賃貸借契約は、同日をもって終了したものと認められる。

 よって、新賃貸人の請求は理由があるから、これを認容することとする。

まとめ

 私書箱が、振り込め詐欺の被害者の現金送付先になっていたという事はよくある事です。

 詐欺に利用される可能性が十分に考えられる私書箱営業で、本人確認記録の作成及び保存を行っていないことは許せないことです。

 振り込め詐欺等の特殊詐欺による被害者は、お金を取られた上、心に深い傷を負わされることになります。

 詐欺被害をなくすためにも、本人確認は重要な事です。

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