宅建業者は買主に将来所有権紛争等が起きる可能性があることを説明する義務があるとされた事例(東京地判平22・3・9)
目次
地図混乱地域の説明義務違反で660万の損害賠償請求
地図混乱地域とは、登記事項証明書や法務局が備え付けている公図に記載されている内容と、実際の土地の位置や形状が相違している地域の事をいいます。
地図混乱地域にあたる場所の取引は慎重に調査を行う必要があります。
六本木ヒルズも建設地権者約400人の土地買収に当たり境界が不明な筆が多く、境界や面積の確定、買収を終えるまで約4年半かかっています。
事案の概要
結論
売主に対する契約解除及び損害賠償請求は認められず、仲介業者に対しては、説明義務違反を理由に660万円の損害賠償請求が認められた。
登場人物
■売主(被告・訴えを起こされた側)
■仲介業者(被告・訴えを起こされた側)
■買主(原告・訴えを起こした側)
■隣地所有者
時系列
■昭和36年 本件土地「地番(イ)」を売主が購入
■平成12年5月 仲介業者の媒介で、本件土地「地番(イ)」を買主が購入
■平成17年9月 本件土地の隣地建物の裁判所執行官の現況調査
■平成19年1月 本件土地の隣地「地番(ロ)」を隣地所有者が購入
■平成19年7月 隣地所有者が買主に本件土地の明渡し、賃料相当損害金の支払いを請求
売主は昭和36年に購入し使用していた本件土地「地番(イ)」(概略図参照)について、平成12年5月に仲介業者の媒介にて買主に2,200万円で売却した。
ところが、平成19年7月、本件土地の隣地「地番(ロ)」を平成19年1月に購入した隣地所有者より、本件土地の大部分が公図上「地番(ロ)」に含まれているとして、本件土地の明渡し及び同年2月より本物件明渡しまで月15万円の割合による賃料相当損害金の支払いを求める通知書が買主宛てに送付された。
買主は売主に対し、
①本件売買は詐欺である。
②本件土地の登記移転義務の債務不履行がある。
③本件土地は全部他人物又は一部他人物であり担保責任がある。
④本件土地において公図と現況に齟齬(そご)があることは瑕疵である。
を理由として
本件契約を取消し又は解除をしたとし、仲介業者に対しては、本件売買において本件土地の権利関係に問題があること等を買主に説明する仲介業者としての義務を怠ったとして、売買代金相当額その他の取引費用合計2,298万円余の損害賠償及び遅延損害金の支払を求めた。
判決と内容のあらまし
裁判所は以下のように判示し、買主の売主に対する請求を棄却し、仲介業者に対する請求を一部容認した。
(1)売主の本件売買に係る欺罔行為・債務不履行の有無、他人物売買か否か
売主は、本件土地を「地番(イ)」の土地であるとして購入し本件売買に至るまで、約40年間にわたり周辺土地所有者との所有権紛争もなく本件土地を使用していたと認められる。
周辺の状況により本件土地は「地番(イ)」か「地番(ロ)」のいずれかの可能性が高いが、公図、住宅地図、航空写真を比べると、公図上の「地番(イ)」及び「地番(ロ)」の土地の形状は、現在の土地使用状況と明らかに異なっており、公図上の土地の位置関係及び形状がその権利関係を正確に反映しているとはいい難い。
また、本件土地の地番(イ)がではなく売主が本件土地の所有権を有していなかったとする証拠はない。
したがって、買主主張の欺罔行為、債務不履行があったとは認められないし、他人物売買であったとも認められない。
(2)除斥期間について
土地瑕疵の存否と売主の瑕疵担保責任本件土地の地番が(イ)か(ロ)か確定できないこと、買主が「地番(ロ)」の土地の登記を有する隣地所有者から本件土地の明渡し等を請求されていることから、本件売買当時、本件土地は将来所有権紛争が生じる可能性があったものであり、売買取引をするについて通常有すべき性能を備えていないものであったといえるから、本件土地には瑕疵があったものと認められる。
しかし、買主は本件土地において駐車場業を営み収益を得ていること、本件土地の所有権紛争は本件売買から7年が経過し隣地所有者が買主に前記通知書を送付したころから顕在化したものであることから、当該瑕疵は売買目的を達成できない程のものとまでは認め難い。
また、平成17年9月の本件土地の隣地建物の裁判所執行官の現況調査において、買主は公図との齟齬(そご)を認識したと認められ、その後1年以内に損害賠償の請求をしなかったのであるから、除斥期間経過により損害賠償請求権は消滅したものといわざるを得ない。
(3)仲介業者の説明義務違反の存否
仲介業者は、本件売買の仲介業務を受託した不動産業者であるから、本件土地の権利関係に疑義が生じるおそれのあることを認識した場合、これを買主に説明する注意義務を負っていたと認められる。
仲介業者は、買主に本件土地周辺の公図及び現況求積図を手渡したものの、将来所有権をめぐる紛争が生じる可能性が存することを説明しなかったのであるから、仲介契約に基づく注意義務を怠ったものと認められる。
(4)買主の損害及び結論
買主は本件土地の所有権紛争に直面しており、建物の建築、本件土地の転売等の行為を一定の限度で事実上制限されるという損害を被っている一方、売買後約7年間にわたり本件土地を使用し現在も駐車場として収益をあげていることを考慮すると、仲介業者の債務不履行による買主の損害額は、本件売買代金の3割に相当する660万円であると認められる。
以上により、買主の売主に対する請求は理由がないのでこれを棄却し、買主の仲介業者に対する請求は、660万円及び遅延損害金についてこれを認める。
まとめ
除斥期間(じょせききかん)とは、法律関係を速やかに確定させるため、一定期間の経過によって権利を消滅させる制度です。
下記は2020年4月の民法改正後の条文です。
- 【民法第566条】(目的物の種類又は数量に関する担保責任の期間の制限)
- 売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、
- 買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。
- ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。
地図混乱地域の取引をした不動産業者に説明義務違反があった場合、例え7年前の契約であっても損害賠償請求が認められる事があります。
また、契約書の裏面にも書いてあるように、境界を買主に明示するのは売主の義務です。
売主もに理解と協力をしてもらう必要があります。
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