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学習塾の開設ができなかったとして、管理会社に654万円の損害賠償請求をした事例

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学習塾の開設ができなかったとして、管理会社に654万円の損害賠償請求をした事例

 マンションの買主が、学習塾の開設が出来なかったとして管理会社に対して行った損害賠償請求が否認された事例(東京地判平24・8・9)

学習塾の開設ができなかったとして、管理会社に654万円の損害賠償請求をした事例

 学習塾が開設できると思って購入したマンションで、住人からの反対があり、学習塾を開設出来なくなってしまった事例。

 買主は、法的保護に値する利益であるといえますが、管理会社の担当者は、住人からの反対があったあと、学習塾を開設するために管理組合と調整を行い、学習塾を開設できるよう協力的に動き、開設できる事の合意を取り付けてくれていました。

 管理規約の状況、内容を適切に伝えなかったことに対して、管理会社の担当にも過失はありますが、開設を反対する住民に加担することなく、住民の利益にも配慮しつつ行動をしたことに侵害行為は認められず、買主の損害賠償請求は棄却されています。

 仲介をする不動産業者は、マンションを居住用以外の目的で使用する予定がある場合は、契約前に管理会社の担当に確認をし、いつもより管理規約も読み込んでおく必要があります。

事案の概要

 原告買主は、平成20年8月24日、不動産会社を仲介として、売主から、本件マンション203号室を1700万円で購入した。

 被告管理会社は、平成20年当時、本件マンションの管理組合との間で管理委託契約を締結して本件マンションを管理していた。

 管理会社の担当者が不動産会社の担当者に対して交付した本件マンションの管理規約「不動産会社の担当者マンション管理規約使用細則」(以下「本件規約1」という)には、「専有部分の範囲」として「住戸、及び事務所」との記載があった。

 買主は、平成21年4月26日、本件マンション203号室において開設予定の学習塾の新聞折込広告を行ったが、これに対して、本件マンション住人から苦情が寄せられた。

 同住人は本件規約1とは別の「不動産会社の担当者マンション管理組合規約駐車場使用規則管理委託契約書管理仕様書」(以下「本件規約2」という)を所持しており、「本物件の用途は、居住用とする」との記載がある。

 買主は、学習塾の開設を断念し、平成22年3月30日、本件マンション203号室を1600万円で売却した。

 そこで、買主は、管理会社に対して、不法行為又は債務不履行に基づき、学習塾開設のための費用、逸失利益、慰謝料等合計654万円余の損害賠償請求訴訟を提起した。

判決と内容のあらまし

 裁判所は、以下のとおり判示して、買主の請求を棄却した。

1争点①(買主は学習塾を開業する法的保護に値する利益を有するか)

 ・認定事実によれば、不動産会社の担当者管理会社の担当者に対して直裁的に学習塾開設の可否を確認した事実は認められないものの、不動産会社の担当者が学習塾開設の可否を確認する意思をもって管理会社の担当者に駐輪台数を問い合わせた際、管理会社の担当者は学習塾の開設が可能であるとの認識を有しておりこれが伝わるような形で受け答えをし、これを受けて不動産会社の担当者が買主に対して学習塾の開設が可能である旨伝えたことが認められる。

 そうすると、買主が本件マンション203号室において学習塾を開設できると考えて本件マンション203号室を購入したのは無理からぬことであり、買主の本件マンション203号室において学習塾を開業できるとの期待は、法的保護に値する利益であるといえる。

2争点②(侵害行為の有無)

 ・認定事実によれば、管理会社の担当者は、学習塾の折込広告がなされた後の平成21年4月30日、買主に対し、6月の総会で話をするから今はまだ生徒をとらないでほしい旨述べた後、本件マンション管理組合理事会と協議し、同年10月25日の本件マンション管理組合の総会においては本件規約1の文言を根拠に事務所開設も可能と考えて不動産会社に回答した旨述べている。

 そうすると、管理会社の担当者はむしろ、本件マンション住民の利益にも配慮しつつ、学習塾を開設するための調整を行っていたというべきであり、一方的に学習塾開設に反対する住民に加担し、買主に対して学習塾開設を断念させる言動をし、本件マンションの管理組合の総会に出席した際に学習塾の開設が困難になる流れを止めることをしなかったということはできない。

 従って、管理会社の担当者の侵害行為は認められない。

3争点③(管理会社の債務不履行責任の有無)

 ・買主は、被告担当者が、買主に対して、買主が本件マンション203号室を購入する前に、本件規約1が無効であることを告げる義務があった旨主張するが、本件マンション管理組合の総会においても二つの規約のうちいずれかが無効であるとは扱っていないことが認められ、本件規約1が無効であるとまでは認められないから、本件規約1が無効であったことを買主に告げるべきであったとはいえない。

 但し、被告担当者には、本件マンションにおいては内容の異なる管理規約が二つ存在していたのに、その内の一つのみを買主に提供し、買主に本件マンションの管理規約の状況、内容を適切に伝えなかった過失があるので、相当因果関係の有無を争点4において検討する。

4争点④(被告担当者の侵害行為と買主が学習塾開設を断念したこととの相当因果関係)

 ・認定事実によれば、平成21年6月の総会で新理事長への引継事項とされたことは、同総会終了時点では未だ学習塾開設を了承したことを買主に伝えていないこと、学習塾開設については本件マンション管理組合から別紙要望事項が提示されており、買主がこれを遵守しているかどうかを見守る必要があったことによるものと解され、同年10月の総会で組合員から住居に限定すべきとの意見が出たのは新たな管理規約に関しての意見であって、すでに6月の総会において了承している学習塾の件とは解されないことから、同年6月7日に学習塾を開設することの合意がなされた事実と矛盾するものではない。

 そうすると、被告担当者が、本件マンションにおいては内容の異なる管理規約が二つ存在していたこと、及びその内容を適切に伝えなかったことは認められるものの、その後、本件マンション管理組合と買主との間で学習塾を開設することで合意したのであるから、上記被告担当者の言動と、買主が本件マンション203号室において学習塾を開設することを断念せざるを得なかったこととの間に相当因果関係があるとはいえない。

まとめ

 居住用のマンションに外部から人が頻繁に出入りされたりすることや、学習塾の子供がマンション内で騒いだり遊んだりすることを考えると、反対をする住人側の気持ちもよく分かります。

 1階部分が店舗になっているマンションではことはよくありますが、それ以外の部屋を事務所等として使用する場合、管理規約の専有部分の使用制限に「住戸、及び事務所」と記載があっても、念のため、管理会社の担当に確認を行ない、管理規約も読み込んでおく必要があります。

 とはいえ、この判例にある「駐車場使用規則管理委託契約書管理仕様書」までは不動産業者も確認していない人がほとんどでしょう。

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