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第一種低層住居専用地域にクリーニング工場、貸主側不動産業者に9,059万円の損害賠償請求

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第一種低層住居専用地域にクリーニング工場、貸主側不動産業者に9,059万円の損害賠償請求

 借主の使用目的には目的物が使用できないことを知っていた貸主側仲介業者の告知義務を認めた事例(東京地判平20・3・13)

第一種低層住居専用地域にクリーニング工場、貸主側不動産業者に9,059万円の損害賠償請求

 普段、不動産業者が市役所で行う調査は地味ですが、取引に慣れてその調査を怠ると、何千万もの賠償金を支払いを命じられることがあります。

 判例では、借主が不動産業者の仲介により借りた物件で、第1種低層住居専用地域でクリーニング工場を営もうとし、行政当局より建築基準法48条(用途地域)に違反するため取り止めるよう是正勧告を受けています。

 不動産業者の担当者は、クリーニングの取次店とクリーニング工場を勘違いでもしたのでしょうか?

 真意は定かではありませんが、貸主側仲介業者は借主より「井戸の掘削の貸主の許可」を求められているところからみて、担当者の認識があまかったのだと思います。

事案の概要

 借主は、クリーニング工場として使用することを目的として、貸主との間で、貸主依頼の仲介業者及び借主依頼の仲介業者の媒介により、第1種低層住居専用地域内に存する倉庫であった本件建物を賃借した。

 借主は本件建物の引渡しを受けて、工場として使用すべく機械等を設置し井戸を掘削したところ、行政当局より建築基準法48条(用途地域)に違反するため取り止めるように是正勧告を受けたため本契約を解約、原状回復の上本件建物を貸主に明け渡した。

 借主は貸主側仲介業者に対し、建築基準法上本件建物が工場として使用することができないことを告知する義務を果たさなかったため損害を被ったとして、宅建業者としての注意義務違反を理由に、支払った家賃、敷金、仲介手数料等、井戸の掘削、機械等の設置とその原状回復費用等の合計9,059万円余及びその利息について損害賠償の請求をした。

判決と内容のあらまし

 裁判所は以下のように判示し、借主の損害賠償請求を一部認容した。

(1)貸主側仲介業者の告知義務について

 貸主側仲介業者は借主より直接媒介契約を締結したとは認められないが、不動産仲介業者は、直接の委託関係はなくても、これら業者の介入に信頼して取引するに至った第三者一般に対して、信義誠実を旨とし、権利者の真偽につき格別に注意する等の業務上の一般的注意義務がある(最二小判昭36・5・26、判時261-21)のであるから、不動産仲介業者としては、委託を受けない当事者の有する、仲介の対象である賃貸借契約の目的物の使用目的を知り、かつ、その使用目的では使用できないことを知り、又は容易に知り得るときは、賃貸借契約を締結しても目的を達し得ないことを告知すべき義務があるというべきである。

 そして、建築基準法上、第1種低層住居専用地域内において原則として工場を建築することはできない(建築基準法48条1項本文)ことは、宅地建物取引業を営む者としては当然知り得ることである。

 次に、貸主側仲介業者は借主の本件建物の使用目的が工場であるとは認識しておらずまた借主より告げられたことはないと主張するが、

 ①借主は「クリーニング工業を営むこと、そのため大量の水が必要であり井戸があること」を条件として物件を探しており、本件建物を賃借するに当たってその使用目的を偽る必要はなかったこと

 ②貸主側仲介業者は借主より求められた井戸の掘削の貸主の許可について、「掘削をして水が出るか否かは借主の責任であること、退去時には原状回復を行うこと」の条件にて貸主の了解を得たことを伝えており、その際の会話において「井戸はクリーニング工場に使用するため必要」との話があったと考えるのが自然であること

 ③あらかじめ契約違反に問われることのないように、当時倉庫の状況であった本件建物をクリーニング工場として使用することについて、貸主側仲介業者を介して貸主の承諾を得たとの借主の証言は信用できると考えられること

等から借主は貸主側仲介業者に対して本件建物の使用目的を伝えていたものと考えられ、貸主側仲介業者は本件建物の使用目的を知悉(ちしつ)していたということができる。

 なお、本件契約書には、本件建物の使用目的について「倉庫」としか記載されていないが、井戸の掘削についても特記事項に記載されていないことに照らすと、貸主側仲介業者は登記等を見て一般的な契約書として本契約書を作成したにすぎないと言うべきであって、本契約書の目的欄に「倉庫」と記載されていることは前述認定を左右しない。

従って、貸主側仲介業者は前述の業務上の一般的注意義務に反しており、損害賠償責任を負う。

(2)損害額の認定について

 借主より請求のあった損害賠償のうち、家賃・敷金・礼金・仲介手数料計338万円余の他、工場機械設置・搬出又は廃棄工事費用、建物建築及び撤去工事費用、電気・付帯設備工事・原状回復工事等を認め、総額8,821万円余を損害賠償額と認定した。

 その上で、過失相殺として、借主も貸主側仲介業者に対して本件建物を工場として利用することについて法律的障害はないのか明示的に確認を求めたものとまでは認められないこと、借主も本件建物が第1種低層住居専用地域内に存することを知っており、他の不動産業者から既存の建物であれば使用可能である旨を聞いて軽信していたこと、などの事情を考慮し、公平の観点から貸主側仲介業者は借主の損害の5割を負担すべきとし、4,410万円余の支払を命じた。

まとめ

 「うちが媒介契約をしてるのは貸主だから、借主からは仲介手数料も貰ってないし、借主のことは知らない。」

 不動産業界をまだあまり知らない人や、新卒で採用された人はそう思っていませんか?

 不動産の契約前の調査は非常に重要なことです。

 たった1回の失敗でも、取り返しのつかないくらいの損害になることがあります。

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