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認知症の代表取締役、妻の不法行為責任

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認知症の代表取締役、妻の不法行為責任

 認知症により事理弁識能力が低下しているものの、それを欠く常況にあったとは認められないとして、判断能力を認めた事例(東京地判平21・11・10)

認知症の代表取締役、妻の不法行為責任

 認知症と診断されても、判断能力がしっかりしている場合には契約が成立する場合があります。

 認知症は治りにくい病、認知症になった人の中には家族から「もう面倒を見たくない」と見放されてしまう方もいます。

 そんな時、自分の事を支えてくれる家族、必要としてくれる人がいれば、その安心感は計り知れないものだと思います。

 【マザーテレサの言葉】

 The most terrible poverty is loneliness, and the feeling of being unloved

 最もひどい貧困は孤独、そして愛されていないという気持ちです。

事案の概要

 (1)X不動産会社(原告)は、不動産の賃貸・保全及び管理等を目的とする特例有限会社である。

 取締役は、代表取締役の前妻との子供である太郎(仮名)及び次郎(仮名)であったが、代表取締役は、平成19年8月28日に死亡したため、次郎が、平成20年5月30日、仮代表取締役に選任された。

 (2)代表取締役は、前妻との間で、太郎及び次郎をもうけたが、前妻は、死亡し、その後、代表取締役は、昭和42年3月30日、妻(被告)と再婚し、妻の子である三郎(仮名)と養子縁組をした。

 (3)本件土地は、代表取締役の所有であったところ、代表取締役は、昭和49年7月20日、本件土地上に本件建物を建築した。

 そして、昭和61年5月1日付け売買を原因として、X不動産会社が本件建物の共有持分10分の9を取得した旨の所有権一部移転登記がされた。

 (4)本件建物については、平成18年9月19日付け売買(以下「本件売買契約」という。)を原因として、有限会社Zに対し、共有者全員持分移転登記がされていた。

 (5)原告X不動産会社は、X不動産会社の代表取締役であった代表取締役が認知症により事理弁識能力を欠いていたのを利用して、被告妻が妻の子であり代表取締役の養子三郎と共謀の上、X不動産会社の唯一の資産であった本件建物の共有持分を取締役らの承認を得ずに無断で他に売却して、借地権価格の10分の9に相当する2億4552万円の損害を与えたとして、妻に対し、不法行為に基づき、上記2億4552万円及びこれに対する不法行為の後である平成18年9月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

判決と内容のあらまし

平成18年2月22日 遺言の内容を変更(判断能力疑問なし)

平成18年4月18日 土地建物の売却を仲介業者に依頼(判断能力疑問なし)

平成18年7月11日 入院(判断能力疑問なし)

平成18年9月19日 売買・司法書士の本人確認時も判断能力に疑問なし

平成18年10月27日 太郎と次郎が、後見開始の申立て

平成19年8月28日 代表取締役、死亡

平成20年5月30日 次郎が代表取締役選任

 裁判所は次のとおり判示し、X不動産の請求を棄却した。

 (1)代表取締役は、老齢性の認知症に罹患しており、その程度は、中等度から重度であったものと認められるが、代表取締役は、平成18年2月22日には公証役場に赴き、従前の遺言の内容を変更する旨の遺言公正証書を作成し、また、民事調停事件の手続きを行っている。

 そして、同年4月18日、本件土地及び本件建物の売却の仲介を仲介業者へ依頼し、媒介契約を締結している。

 さらに、同年7月11日に病院に入院する際には、自ら、精神保健法22条の4第1項によって入院を同意している。

 少なくとも、これらの手続は、立場が異なる複数の者らが代表取締役に対応しているが、その手続の過程において、代表取締役の判断能力に疑問が持たれたような形跡はない。

 (2)そして、同年9月19日、司法書士による本人確認の際には、代表取締役は、媒介契約書に記載されていた責任者の氏名と齟齬(そご)があることを指摘し、司法書士に対し、買主である有限会社Zがどのような会社か、自己が死亡後は売買代金はどうなるのかなどと質問しており、そのやり取りは、代表取締役の判断能力に特に疑問を抱くようなものではない。

 (3)代表取締役は、日本語版COGNISTAT(コグニスタット)検査においては、全体として、見当識、記銘力、注意力及び言語流暢性に障害が認められたものの、「理解」、「計算」及び「論理」は正常域を示しており、このことは、一定の領域において、判断能力は未だ保持されていたことが窺われる。

 (4)したがって、本件売買契約の当時、代表取締役は、事理弁識能力に低下はあったものの、それを欠く常況にあったものとは認められない。

 このことは、太郎及び次郎が、同年10月27日に東京家庭裁判所に後見開始の申立てをしているが、裁判所に示唆され、申立ての直後に保佐開始の申立てに申立ての趣旨を変更していることとも合致するものといえる。

 (4)以上によれば、代表取締役は、本件売買契約の当時、老齢性の認知症のため事理弁識能力が低下していた状態にあったものの、未だ判断能力を保持しており、その意思に基づき、本件建物の売却を三郎に委任したものというべきであって、本件建物の売却について、被告妻に不法行為責任はないから、原告X不動産会社の請求は棄却する。

まとめ

 親族間のお金に関する争いはよくある話です。

 各家庭に色々な事情はあると思いますが、亡くなった方が自分の子供たちが争っているところのみたいと思うでしょうか?

 ほとんどの親が「仲良く暮らしてほしい」と思っているはずです。

 日頃から連絡を取り合っていれば、認知症がどれくらい進行しているのかくらいの事はすぐ分かるはずです。

 亡くなった方の意思で行った行動に、後からとやかく文句をつける事はやめておきましょう。

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