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建て貸しを知らず、367万の賠償金の支払い

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建て貸しを知らず、367万の賠償金の支払い

 建て貸しの媒介業者に信義則上の説明義務違反があるとされた事例(福岡地裁平19・4・26)

建て貸しを知らず、367万の賠償金の支払い

 建て貸しとは、 土地所有者が借家人の望む仕様の建物を建築して賃貸する建物賃貸借の一形態。

 オーダーメイド賃貸と呼ばれ、コンビニのようなチェーン店舗などにおいて多用され、賃貸人は、建築資金を賃借人が負担する建設協力金や敷金により調達するのが一般的です。

 借主のメリットとしては、希望の広さ・形の建物を建てて貰えますが、デメリットとして、貸主に立てて貰う以上、通常10年~20年以上借りないといけない中途解約制限等の縛りがあります。

 通常、この中途解約制限条項を契約書の内容に入れない事はありませんので、中古解約制限条項を入れなかった場合は媒介業者が責任を問われる事があります。

事案の概要

 貸主がその所有建物を借主の要望に従って増改築した上で借主に賃貸する契約(建て貸し)の媒介を、媒介業者に依頼し、貸主・借主間に期間を9年間とする建物賃貸借契約が成立したが、中途解約を制限する条項が盛り込まれていなかった。

 その結果、借主から中途解約されて損害を被ったとして、貸主が媒介業者に対し、媒介契約の債務不履行による損害賠償を求めた事案である。

 貸主が主張する媒介業者の債務不履行の内容は、本件建物賃貸借契約は、いわゆる建て貸し(土地の所有者がその土地の上に建物(テナント側の希望した設計による)を建設し土地と建物を併せて賃貸借する方式で、テナントの望む建物を建て、テナントから保証金や敷金、家賃などを払ってもらい、賃貸経営を成り立たせるもの)であるから、増改築に要した投下資本(3360万円)を回収するためには一定期間賃料収入を確保する必要があり、借主が中途解約をした場合には、残余期間の賃料を保証する条項(中途解約制限条項)を盛り込む必要があったのに、媒介業者はこれを怠ったというものである。

 これに対し、媒介業者は、本件賃貸借契約書案(中途解約制限条項が盛り込まれていないもの)を貸主に示してその内容を説明し、貸主は内容を理解した上で契約を締結したものであるから、媒介業者に債務不履行はないと主張した。

判決と内容のあらまし

 裁判所は次のように判示して、貸主の請求の一部を認容した。

(1)媒介業者の債務不履行責任について

 媒介業者は、貸主との間で、本件建物を借主に賃貸する契約を締結する媒介契約を締結したものであるから、本件賃貸借契約の重要事項について書面を交付して説明すべき義務がある(宅地建物取引業法35条)。

 認定事実によれば、媒介業者が貸主に対し、契約の解除に関する事項も記載した契約書案を交付し、重要事項についても説明しており、貸主が本件賃貸借契約の内容を理解して契約を締結したことが認められる。

 しかしながら、本件のようないわゆる建て貸しにおける中途解約制限条項の重要性にかんがみれば、媒介業者は、信義則上、借主から示された契約書案に含まれていた中途解約制限条項をあえて本件賃貸借契約においては外したことについて具体的に説明してその承諾を得るべき義務があったというべきであり、この具体的な説明義務を果たしたことが認められない本件においては、媒介業者に信義則上の説明義務違反があったというべきである。

 そして、借主は本件建物を借りるに当たって、中途解約制限条項を入れることに異存はなかったことがうかがわれるから(借主から被告媒介業者に示された契約書案には同条項が含まれていた)、媒介業者が中途解約制限条項を入れなかったことを具体的に説明すれば、貸主において同条項を入れるよう求めて同条項が入った契約になった可能性が高いということができる。

 そうすると、媒介業者には同条項を入れないことについて具体的な説明をしなかったことによって貸主がこうむった損害を賠償すべき責任があるというべきである。

(2)過失相殺について

 以上認定の事実によれば、媒介業者に仲介業者として信義則上の説明義務違反が認められるが、他方で、媒介業者は本件賃貸借契約の仲介をしたにすぎず、貸主の代理人として賃貸内容を決定する立場にあったものではないこと、貸主は、建て貸しの経験を含め不動産の賃貸により相当の収入を得ている者であり、また、相当の社会的地位、経験も有していること、貸主は本件賃貸借契約の契約内容を理解した上で本件賃貸借契約を締結したものであることなど、本件に顕れた一切の事情を考慮すると、貸主に4割の過失相殺をするのが相当である。

 そうすると、媒介業者が賠償すべき額は、損害合計612万5000円の6割である367万5000円となる。

まとめ

 建て貸しは、貸主と借主の話し合いをうまく進める事ができれば双方にメリットのある契約内容です。

 しかし、特殊な賃貸借契約の為、経験したことがある不動産業者も少ないと思われるため注意が必要です。

 また、建て貸しで賃貸住宅を個人と契約する場合には賃料交渉をされにくいですが、企業との契約の場合は、賃料交渉のされやすいです。

 まさにコロナ禍の今、その影響は出てきています。

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