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代理権に関する最高の裁判例と、土地開発公社の問題点

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代理権に関する最高の裁判例と、土地開発公社の問題点

不実の所有権移転登記がされたことにつき、所有者が当該移転登記の抹消を請求した事案において、所有者にも重い帰責性があるとして、民法94条2項、110条を類推適用すべきものとされた事例(最高裁 平成18年2月23日)

代理権に関する最高の裁判例と、土地開発公社の問題点

事案の概要

結論

上告人の不注意な行為により、公社の職員によって虚偽の外観(不実の登記)が作出されたため、被上告人名義の所有権移転登記の抹消登記請求は認められませんでした。

登場人物

■上告人(訴えを起こした側・原告・控訴人)

■被上告人(訴えられた側・被告・被控訴人)

■公社の職員(大分県土地開発公社の職員)

■A氏(公社の職員から紹介された人)

時系列

■平成7年3月、上告人が、大分県土地開発公社の職員と知り合いになる。

■平成8年1月11日、公社の職員の紹介により、Bから、本本件不動産を代金7、300万円で買受る。

■平成8年1月25日、Bから上告人に対する所有権移転登記がされた。

■平成8年2月、上告人は、本件不動産の管理を委託するための諸経費の名目で240万円を公社の職員に交付する。

■平成8年7月以降、本件不動産を第三者に賃貸

■平成11年9月21日、本件不動産の登記済証を公社の職員に預ける

■平成11年11月30日、上告人が公社の職員に印鑑証明2通を交付。

■平成12年1月28日、上告人が公社の職員に印鑑証明2通を交付。

■平成12年1月31日、本件不動産の上告人から公社の職員に対する売買。

■平成12年2月1日、本件不動産の所有権移転登記手続。

平成12年3月23日、本件不動産を公社の職員が被上告人と契約

■平成12年4月5日、本件不動産に所有権移転登記。

 ⑴上告人(原告・控訴人)は、平成7年3月にその所有する土地を大分県土地開発公社の仲介により日本道路公団に売却した際、同公社の職員と知り合った

 ⑵上告人は、平成8年1月11日ころ、公社の職員の紹介により、A氏から、本件土地及び建物(以下、これらを併せて「本件不動産」という)を代金7,300万円で買受け、同月25日、A氏から上告人に対する所有権移転登記がされた。

 ⑶上告人は、公社の職員に対し、本件不動産を第三者に賃貸するよう取り計らってほしいと依頼し、平成8年2月、言われるままに、業者に本件不動産の管理を委託するための諸経費の名目で240万円を公社の職員に交付した。

 上告人は、公社の職員の紹介により、同年7月以降、本件不動産を第三者に賃貸したが、その際の賃借人との交渉、賃貸借契約書の作成及び敷金等の授受は、すべて公社の職員を介して行われた

 ⑷上告人は、平成11年9月21日、公社の職員から、上記240万円を返還する手続をするので本件不動産の登記済証を預からせてほしいと言われ、これを公社の職員に預けた。

 また、上告人は、以前に購入し上告人への所有権移転登記がされないままになっていた大分市大字松岡字尾崎西7371番4の土地(以下「7371番4の土地」という)についても、公社の職員に対し、所有権移転登記手続及び隣接地との合筆登記手続を依頼していたが、公社の職員から、7371番4の土地の登記手続に必要であると言われ、平成11年11月30日及び平成12年1月28日の2回にわたり、上告人の印鑑登録証明書各2通(合計4通)を公社の職員に交付した。

 なお、上告人が公社の職員に本件不動産を代金4、300万円で売り渡す旨の平成11年11月7日付け売買契約書(以下「本件売買契約書」という)が存在するが、これは、時期は明らかでないが、上告人が、その内容及び使途を確認することなく、本件不動産を売却する意思がないのに公社の職員から言われるままに署名押印して作成したものである。

 ⑸上告人は、平成12年2月1日、公社の職員から7371番4の土地の登記手続に必要であると言われて実印を渡し、公社の職員がその場で所持していた本件不動産の登記申請書に押印するのを漫然と見ていた

 公社の職員は、上告人から預かっていた本件不動産の登記済証及び印鑑登録証明書並びに上記登記申請書を用いて、同日、本件不動産につき、上告人から公社の職員に対する同年1月31日売買を原因とする所有権移転登記手続をした(以下、この登記を「本件登記」という)。

 ⑹公社の職員は、平成12年3月23日、被上告人(被告・被控訴人)との間で、本件不動産を代金3、500万円で売り渡す旨の契約を締結し、これに基づき、同年4月5日、公社の職員から被上告人に対する所有権移転登記がなされた。

 被上告人は、本件登記等から公社の職員が本件不動産の所有者であると信じ、かつ、そのように信ずることについて過失がなかった。

 ⑺上告人は、平成12年4月5日付の公社の職員から被上告人への所有権移転登記ならびに同年2月1日付の上告人から公社の職員への所有権移転登記の抹消を求めた。

 第1審(大分地判平成14年4月19日判時1842号79頁)は、上告人から公社の職員に対して本件不動産および別件の土地に関する様々な代理権を付与されており、被上告人には本件不動産の所有者は公社の職員であると信じたことについて「正当な理由」があると述べて、民法110条を類推適用し上告人の請求を棄却した。

 原審(福岡高判平成15年3月28日判時1842号79頁)は、第1審と同じく民法110条の類推適用により、被上告人が本件不動産の所有権を取得したと判断した。

 なお、上告人はこの点につき、本件は第三者が不動産の不実の外形(登記等)を信じて取引関係に入った事案であるから、まず民法94条2項の類推適用が認められる場合か否かについて検討し、それが肯定される場合に民法110条の類推適用が検討されるべきである旨の主張をしていたのであるが、原審は、民法94条2項および民法110条の類推適用について上告人が公社の職員を全面的に信頼し、本件不動産に関してその購入からその後の管理に至るまで一切を任せるという内容の代理権を授与していたところ、公社の職員が上告人から信頼されていることを奇貨(きか)として、授与されていた地位や権限を濫用して本件不動産につき虚偽の外観(登記済権利証の所持、上告人から公社の職員への所有権移転登記の経由)を作出し、本件不動産を第三者である被上告人に処分したという場合においては、権限のある者の処分行為であることを信頼して取引した第三者の保護を図る民法110条の類推適用(第三者の側の正当理由だけを問題にするのではなく、基本代理権授与の有無及び代理人の権限越の事情等の観点から本人側の帰責事由の有無をも問題とする)の可否を検討するのが相当であるとして、被上告人名義の所有権移転登記の抹消登記請求は認めずに平成12年2月1日付の上告人から公社の職員への所有権移転登記の抹消登記の請求だけを認めた。

 上告人は、代理形式ではなく訴外公社の職員が自己名義にした不実登記を信頼して本件不動産を購入した相手方の保護は、民法94条2項が類推適用される場合にのみ民法110条の類推適用が検討されるべきであり(すなわち、民法94条2項と民法110条の併用がなされるべきである)、民法94条2項が類推適用される余地のない場合にまで、民法110条のみを類推適用することは許されないというべきであると主張した。

判決と内容のあらまし

上告棄却

 「前記確定事実によれば、上告人は、公社の職員に対し、本件不動産の賃貸に係る事務及び7371番4の土地についての所有権移転登記等の手続を任せていたのであるが、そのために必要であるとは考えられない本件不動産の登記済証を合理的な理由もないのに公社の職員に預けて数か月間にわたってこれを放置し、公社の職員から7371番4の土地の登記手続に必要と言われて2回にわたって印鑑登録証明書4通を公社の職員に交付し、本件不動産を売却する意思がないのに公社の職員の言うままに本件売買契約書に署名押印するなど、公社の職員によって本件不動産がほしいままに処分されかねない状況を生じさせていたにもかかわらず、これを顧みることなく、さらに、本件登記がされた平成12年2月1日には、公社の職員の言うままに実印を渡し、公社の職員が上告人の面前でこれを本件不動産の登記申請書に押捺したのに、その内容を確認したり使途を問いただしたりすることもなく漫然とこれを見ていたというのである。

 そうすると、公社の職員が本件不動産の登記済証、上告人の印鑑登録証明書及び上告人を申請者とする登記申請書を用いて本件登記手続をすることができたのは、上記のような上告人の余りにも不注意な行為によるものであり、公社の職員によって虚偽の外観(不実の登記)が作出されたことについての上告人の帰責性の程度は、自ら外観の作出に積極的に関与した場合やこれを知りながらあえて放置した場合と同視し得るほど重いものというべきである。

 そして、前記確定事実によれば、被上告人は、公社の職員が所有者であるとの外観を信じ、また、そのように信ずることについて過失がなかったというのであるから、民法94条2項、110条の類推適用により、上告人は、公社の職員が本件不動産の所有権を取得していないことを被上告人に対し主張することができないものと解するのが相当である。

 上告人の請求を棄却すべきものとした原審の判断は、結論において正当である」として、上告人の上告を棄却した。

判決内容に対する主観的なコメント

 判例に関しては、上告人の不注意としか言いようがありません。

 「権利証・実印・印鑑証明を渡し、目の前で登記申請書に実印を押印されるのをただ漫然とをみていた。

 それを後から、「売却する意思がなかった」と言われても買主が納得する訳がありません。

 それにしても、公社の職員に対する上告人の信頼は異常な程のように感じました。

 上告人は、公社の職員のことを家族のように思っていたのかもしれません。

 公社(土地開発公社)は、土地の先買いにおける買取主体としての役割を担うほか、公共事業用地の先行的取得などの業務を行なっています。

 しかし、土地開発公社を取り巻く環境は、バブル期と比べて大きく変化してきており、現在も塩漬けになっている土地が各地で複数見受けられます。

 公社の土地の場合、固定資産税がかからないため保有し続ける事は容易なことのようですが、金融機関から借入をして取得している事も多いため、金利負担の累積が多額となり、金利の支払が公社の経営を圧迫する原因にもなっています。

 つまり、保有する期間分だけ金利分が増えていくため、買い取り価格は上昇し続けます。

 また、売却する際は、取得時に比べて地価が低下している場合、含み損も発生するため、地方自治体は購入に対し議会や住民の同意が得られにくくなっています。

 公社の借金は地方自治体の借金でもありますので、住宅地や商業地として有効活用可能な土地に関しては利用し、地域と連携して意思決定を進めていただきたいと思います。

まとめ  

 代理人がした越権行為について、第三者(代理行為の相手)が、代理人に代理権があると信じたことに正当な理由があるときには、本人が責任をとらないといけなくなります。

 類推適用とは、事案の解決に合う法規がない場合で、ある法規が想定した場面によく似ているものがあるときに、法規の「こころ」にしたがいつつ、その守備範囲を少し広げて解決を図ろうという方法の事です。

 また、夫婦の場合であっても、一方がした無権代理行為を、その夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内のものだと信じたことに正当な理由があれば、「民法110条の趣旨を類推適用」して、第三者は保護されます。

第94条(虚偽表示)

相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。

前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。

民法第109条(代理権授与の表示による表見代理)

第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。

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