隣人とのトラブルについて媒介業者に説明義務違反があるとされた事例(大阪高判平16・12・2)
目次
騒音トラブルの説明義務違反
この判例で重要なポイントは2つ
1.騒音トラブルに関しては、契約時に説明や物件状況報告書に記載するだけではなく、事実を正確に伝えなければ、売主も信義則上の説明義務に違反になること。
2.売主の営業担当者が、買主の営業担当者に対して、騒音トラブルの件を買主に伝えるよう連絡しただけでは、売主側の仲介業者の説明義務が尽くされたとはいえないこと。
判決では、売主と売主側仲介業者に、物件価格の20%相当額の支払が命じられています。
事案の概要
売主は、平成11年10月、土地建物(以下、建物を「本件建物」といい、土地とあわせて「本件不動産」という。)を購入したが、隣人(以下「本件隣人」という。)から「子供がうるさい。」と苦情を言われ、洗濯物に水をかけられたり、泥を投げられたことがあった。
そこで、売主は本件隣人について、自治会長や警察に相談した。
また、売主は本件建物と本件隣人宅の間に波板の塀を設け、2階のベランダにも波板を付け、子供部屋を東側にする等の措置を講じた。
売主は平成13年9月ころ、本件不動産を売却しようと仲介業者にその売却の媒介を依頑し、他方、買主も、別の仲介業者にその購入の媒介を依頼した。
売主側の仲介業者従業員Aと、買主側の仲介業者従業員Bは、平成14年3月3日午前、他の購入希望者とともに本件不動産を訪れ、内覧をさせた。
その際、本件隣人は「うるさい。」と苦情を言い同購入希望者が本件不動産を購入する話は流れた(以下この出来事を「3月3日午前の件」という。)。
同日午後、買主の妻と3人の子は買主側の仲介業者の営業担当者(以下「買主の営業担当者」)及び売主側の仲介業者の営業担当者(以下「売主の営業担当者)とともに本件建物を訪れ、売主の妻が応対した。
その際、本件隣人からの苦情はなかった。
買主、買主の妻、売主、売主の営業担当者及び買主の営業担当者は同月16日売買契約締結のため、売主側の仲介業者の営業所に集まり、買主はその場で、売主から、本件不動産の状況を記載した物件状況等報告書(以下「本件報告書」という。)を受領した。
本件報告書の、「その他買主に説明すべき事項」の「その他」欄には「西側隣接地の住人の方より、騒音等による苦情ありました。」との記載(以下「本件付記」という。)がある。
買主は売主との間で、売買契約を締結し、同月28日、代金2,280万円を支払い、所有権移転登記を受けた。
買主は同年6月9日、子とともに本件建物を訪れたところ、本件隣人から「うるさい。」と言われ、同月15日、及び23日ころ、に買主の妻及び子とともに本件建物を訪れた際も、苦情を言われ、警察官を呼ぶ騒ぎとなった。
買主は本件隣人のため本件建物では平穏に生活できないと考え、本件建物に一度も引っ越すことなく、居住を断念した。
買主は売主売主及び媒介業者売主側の仲介業者に対し、説明義務違反、不法行為による損害賠償を請求した。
一審地方裁判所は買主の請求を棄却したため控訴に及んだ。
判決と内容のあらまし
高等裁判所は次のように判示して一審の判決を変更し、不動産価値の減少分として購入価格の20%相当額の支払を命じた。
(1)売主の営業担当者が説明をしなかった理由
売主の営業担当者は同僚である従業員Aから、3月3日午前の件を聞き、同日午後買主の営業担当者とともに買主の妻を本件不動産に案内した際、買主の営業担当者に対し、3月3日午前の件を買主に説明するよう依頼し、買主の営業担当者は、自分の方から話をする旨答えた。
売主の営業担当者は同月14日ころ、売主と協議した上で、買主への重要事項説明に用いる本件報告書に本件付記を記載した。
また、売主の営業担当者は、買主の営業担当者が買主に対して本件隣人について説明していない様子であるため、買主に直接説明してほしいと売主に依頼した。
(2)売主の説明義務違反について
売主が買主から直接説明することを求められ、かつ、その事項が購入希望者に重大な不利益をもたらすおそれがあり、その契約締結の可否の判断に影響を及ぼすことが予想される場合には、売主は、信義則上、当該事項につき事実に反する説明をすることが許されないことはもちろん、説明をしなかったり、買主を誤信させるような説明をすることは許されないというべきであり、当該事項について説明義務を負うと解するのが相当である。
売主は、買主から本件付記について尋ねられた際
①本件隣人は、売主が本件建物に引っ越した翌日に「子供がうるさい。黙らせろ。」と苦情を言ってきたこと
②本件隣人は、平成12年3月ころにも子供がうるさいと怒り、洗濯物に水をかけたり、泥を投げたこと
③売主は、本件隣人について自治会長や警察に相談したこと
④3月3日午前の件、について
買主に説明しなかった。
また、売主は本件売買契約締結の直前に3月3日午前の件が発生しているにもかかわらず、買主に対し、最近は本件隣人との問で全く問題が生じていないという誤信を生じさせたというべきである。
売主は、買主に対して上記①ないし④の事実を説明せず、かつ上記の誤信を生じさせたのであるから、信義則上、売主に求められる説明義務に違反したというべきである。
(3)売主業者の説明義務違反について
居住用不動産の売買の媒介を行おうとする宅地建物取引業者は、購入者が当該建物において居住するのに支障を来すおそれがあるような事情について客観的事実を認識した場合には、当該客観的事実について説明する義務を負う。
売主の営業担当者が買主の営業担当者に対して、3月3日午前の件を買主に伝えるよう連絡したことによって売主側の仲介業者の説明義務が尽くされたとはいえない。
売主及び売主側の仲介業者は連帯して、損害賠償義務を負う。
(4)売主と売主仲介業者の賠償金について
売主及び売主側の仲介業者の説明義務違反によって買主が被った損害は、買主が支払った本件不動産の売買代金2,280万円と、本件隣人について適切な説明がなされた場合に想定される本件不動産の交換価値との差額であるというべきである。
本件不動産は本件隣人がいない場合の交換価値と比較して、少なくともその20%相当額が減価していると認められる。
まとめ
騒音に関するトラブルはよくある事です。
今年はコロナで、自宅待機が長引いた影響もあって、マンションでは「子供の走り回る音がうるさい」という苦情がかなりの数で起きています。
騒音を発生させないようにマットを敷くなどの対応をとることも重要ですが、引越しの挨拶はもっと重要です。
どんな方が住んでいるのかが分かれば、多少の騒音は許してもらえることがあります。
それが通用しない人もたまにいますが・・・
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